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やけくそアップ→改め「花嵐」⑤/⑤ [捏造◆作文]

ようやくの完結です…… ゼィゼィゼィ[たらーっ(汗)]orz

申し上げておきますが、長いです! なんでこんなに文字数かかるかな[exclamation&question](^"^;)
たぶん、しばらくは我が家の最長不倒記録となりましょう[ダッシュ(走り出すさま)]

つ、疲れたぁ~~~~!!!
校正もそこそこに上げちゃいますので、後でこっそりチョコチョコといじると思います。
完全に完成しての脱稿とは行かない力足らずを、どうかお許しくださいませ(^人^;)
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 入り乱れる足音も高く、リビングからベッドルームへ雪崩れ込んだ。まるで酔っ払いの乱闘という景色だったが、両者ともそんな自分たちに構う余裕など皆無だった。
 襟首を掴んでベッドに投げ込まれ、決然たる意志を持った両手に、最後に残った衣類を剥ぎ取られながら、
「もう止そう、雄一郎…!」
 祐介は未だ、我が身と相手とに抗うことを諦めていなかった。
「嫌や」
 雄一郎は呻り声一つで切って捨て、自らのネクタイを引き毟り、シャツをかなぐり捨てる。その隙に起き上がって逃れかけた祐介を、右腕の一薙ぎで阻止して引き摺り倒し、
「ここまで来て、途中で止められる男がおるかい」
 低く決めつけるなり、体重を使って二人の躰をシーツの底に沈めた。
 重傷を負って死にかけてからまだ半年も経たない相手を慮って、とても本気では抵抗できなかった祐介だったが、もはや限界か、と覚悟を固めようとした刹那、
「止そう…ってのは、今夜この場のことか? ――それとも、今後いっさいのことか」
 上から覗き込む雄一郎の声が、さらりと静かに核心を突いてきた。
 日頃は外光を全反射するのみの硝子のような彼の双眸は、自らの心底に真っ直ぐ集中したとき、自ら目映い漆黒の光を放つ。今も、雄一郎の烈しい意志の照射に灼かれ、祐介は己の裡で揺らぐものを感じた。
 唇を噛んで目の色を深める祐介を見下ろし、雄一郎は酷薄な笑みを口端に上せた。追い詰められた獲物を確認する、獣の笑み。
「あんたが何を考えようが、逃がさない」
「ゆう――」
「俺が、あんたを逃がさない」
 言い渡した唇で、まだ何か言いかける祐介の口を塞ぐ。
 嬲るこの舌には、何の言葉も紡がせない。どうせ自虐の限り、己を断罪するしかしやがらない。
 固く閉じられた睫毛が震えるのを至近に見ながら、利き手を肌に沿って滑らせる。しっとりと汗ばんだ手触りの奥に、軋む骨とどくどくと滾る血脈が触れる。
 ――さあ、出てこい祐介、俺に加勢しろ。お前かて、抑え付けられるのはもういい加減飽き飽きしとるはずや……
 敷布を巻き込んで捩れる躰を、腕で巻いて追う。その程度の抵抗が何になる。半ば以上目覚めたままの状態で放置されたものを手のひらに捕らえると、意固地な唇から蕩けそうな吐息が漏れたのを、衣擦れの音が騒ぐ中にも、雄一郎は確かに聞き取った。
 五指を駆使して追い上げると、綺麗に整えられていたシーツに大胆にドレープを刻み、祐介の全身が鮮やかに反り返った。隠すもののなくなったその胸に、目が惹き付けられる。一点仄紅く血が透けるところに唇を落とせば、忽ちに尖った舌触りが応える。唾液に濡れ光り、ぬめる突起を甘く噛むと、いっそう噛み締められた唇から色が失せるのが見えた。まだ許さない。
「ん……ふぅ…っ」
 口は力尽くで封じても、鼻から抜ける息に色が付くのはもう止められない。何とも愛らしい鼻声は、身悶えする恥ずかしさだろう。だが、頑固に逸らしたその貌はどうだ。苦しげに眉根を寄せ、息も殺して限界と闘うさまは、ともすれば、目を瞑って一心に内なる感覚を追っているようにも見える。弱さと葛藤も露わに、己の手に翻弄される祐介の姿に、雄一郎も自らの鼓動が轟音となって耳鳴りがするほど昂ぶった。
 堪らず、弄び続けていたものに自らの屹立も併せ、一纏めに握り込む。躰のほかのどの部分にもない、剥き出しの感覚器そのままな弾力同士が薄い粘膜越しに擦れ合う感触に、奔放に顎が上がる。両者の降り零す粘液が混じり合い、ぬかるみを掻き回すようなあられもない音が立つ。谺するふいごのような呼吸音は、もうどちらのものか分からない。
 そぼ濡れた利き手を奥へ忍ばせ、唯一知る祐介と我が身とを繋げるすべを試みようと指を使う。自分は何ということをしているのか、という冷えた囁きは、逸る熱と喘ぎの前に捻じ伏せるまでもなく霧散した。

 ひとたび暴走を始めると音無き嵐のようになる雄一郎に攫われ、気が付けば遮る布一枚なく、総身がひたりと重なり合っていた。まだ到底慣れない、滑らかな体温の圧倒的な心地よさだけで自分がどれだけ惑乱するのかも、まるで未知の領域なのに。
 雄一郎の、いま確かに生きている、触れるだに痛みを覚えるような血の熱さ。この奇跡の―――
 ふっと我に返ったのは、攻め立てる手が瞬時止んだからか。悟るいとまもなく、己の上の温かな重みから悩ましい声が零れ落ちた。
「はぁ……、ん――ッ!」
 愕然と見上げる。雄一郎が、己が身に指を突き立て、上がる息を逃しながら耐えている。二つに折った身の肩先が震え、突っ伏すその髪が震え、息音が震えている。上気した目元が潤み、閉じる間もない唇を舌が這い湿している。
 ――この馬鹿、何てことをしている、どこでそんなことを覚えた…!?
 誰を罵っているのかも定かでない字列が、声にもならず喉に詰まって空転する中、それでも愚かな双眸だけは雄一郎に張り付いて離れない。
 この馬鹿、馬鹿―――、愛している…………

 
 雄一郎の瞼がゆるりと上がった。
 凍り付いたように凝視する祐介の目を、決意と、その影に飢えとを孕んだ眸が、すらりと見返す。視線を視線で縫い止めたまま、その手が迷うことなく祐介の猛りを捕らえ、躰が―――
「待て」
「ほう、まだ言えるんか」
「嫌だって言ってるんだ」
「此奴はそうは言うてない」
「下半身に人格なんかあるか! 俺は、お前の苦しむところなんか見たくないっ」
「俺がやる言うとるんやからええんや!」
 ……何という不毛な言い合いをしている、いい歳をした男二人が。正気に返ったら刺し違えて心中でもするか、恥臭さに憤死でもしそうだ。局所に血が集まっている間は男の思考力は半減するとかいう俗説によれば、今は情実と勢いとで振り回されて然るべき局面なのが、互いにとってまさに望むところ、かもしれない。感情と真実。もはやそれら以外に、この帰結を決することなど、出来はしないのだから。
 大捕物の後のように乱れに乱れたベッドの上で、肩で息をつきながら睨み合う。交わされる火の点きそうな眼差しの下で、雄一郎の顔が不意に歪んだ。
 ――なんで、祐介。なんでそんなに我を張るんや。
 こんなこと、どうでもええのに……!

 自分にとってはさして重要でもない個々の情交の首尾、そんなものにこうまで真剣に思い悩む祐介が、良い歳してアホくさい。好き放題振り回してくれやがって、もういい加減腹が立つ。
 だが一方で。
 不器用な一心で、そこまで自分を想ってくれる祐介が愛おしくてどうにかなりそうだ。可哀想で堪らない。情けなくて泣けてくる……って、これはもう既に“愛”ではないのか?
 大体が、情も交わさない“義兄弟”のままで良かったのなら、あの病室で祐介がキレることなどなかったのだ。18年もの間ひたすら忍んできた彼が、もう一刻も耐えられない、そんな限界が来ていたから決壊したのだろうに。
 それに返すにあんな手紙、親友や義兄弟で良いなら、最初から書かなかった。離れて行くなら行くで、それぞれに征く道はあったのだ。
 親友や義兄弟が決してやらないこと。このベッドの中に、躰を繋げた先に、俺たちの答えがある。
 誰にも訊けない、正解なんかない。俺たちだけで辿り着くしかない、“答え”が。

「――祐介?」
 しばし沈思した後、調子の変わった雄一郎の静かな声に、頑なに逸らしていた祐介の顔が戻った。
「頼む、提案させてくれ。互いの躰に訊いてみよう」
 もう一度だけ試させてくれ、どうなるのか。
「雄一郎?」
 此方の真意を計るように、慎重に覗き込む相手の目に視線を合わせ、熱をこめてかき口説く。
「俺にはもうあんたしかおらんから、とワガママ言うて、一度還って来てもろうた。もうこれ以上言わん」
「お前…………」
「これが最後でもええから。―――頼む」
 刹那見せた迷う素振りを振り切って、ひんやりとした祐介の手が頬に触れてきた。視線を絡め合わせて顔を寄せ、触れ合わせるだけの口づけをする。誓いの、約束のキス?
 ――今生の別れと思い定めたか。
 向き合う冥い眸に在り在りと読み取るが、構うものか、と挑みかかる。
 俺たちがどうなるかなど、一幕が終われば分かることだ。


 もう一度、キスからやり直す。唇が触れあうより先に、ぶつかるように祐介が抱きしめてきた。上背も体格も大差ない者同士、身を揉みながらに抱き付かれると、こめかみが擦れ合い、耳殻がぶつかり合い、あちこち痛む接触事故になる。思わず苦笑いが漏れるが、荒い息の間に間に、
「雄一郎……雄一郎………」
 と己の名を切ない声音で呼ばれると、接触するはずのない胸郭の内側がきゅうっと痛くなった。アホウが……
 背中に添えた手に大切に支えられ、壊れ物を扱う所作でそっとシーツに倒される。まだ回された両腕に、背中がシーツから浮くほどに締め上げられる。――苦しいって。
 己の重さに仰け反った喉元に、熱い唇が降りてくる。噛み付く強さで吸われると、一瞬で全身が総毛立った。神経に沿って駆け抜けた戦慄から、お前が必要だ、欲しい…という祐介の想いが流れ込んでくる。
 仕返しに、祐介の脇から肩に巻き付けた腕で羽交い締めにする。体重をかけて撓めた相手の背に、爪を立てる。びくりと戦いた上体を引き下ろし、喘ぎを逃す口を、開いた唇に深く迎え入れる。この舌から伝われ。あんたが必要だ、欲しい……
 了承の印に、ちゅく、と濡れた音が立った。
 雄一郎の頭を挟み込んだ祐介の手のひらが、愛しい顔貌を確かめようと、髪に指を差し込んで撫で回す。百万言より雄弁な手のひらが、淋しかった、満たされて今、しあわせだ――とすべらかに囁く。触れたところから電流が走り、さまざまな悟りが明滅する。

 ――この、言葉を介さないやりとりが大事なんと違うのか。なあ、祐介?
 他の誰とも出来ない、今この二人の間でしか通じない。一片の嘘も飾りも混ぜ込むことの出来ない、密やかにして親密過ぎる会話………ボディ・トーク。

 
 身の裡に響き合う感覚を追いながら、漫然と思考を飛ばしていた雄一郎だったが、
「雄一郎?」
 己自身の声を恐れるように忍びやかに呼ばれ、上から覗き込む祐介の面に目を戻した。
「いい…か?」
 ――今さら訊くなっ!
 ぎろりと睨み上げて返事とする。とはいえ、顔付きこそ年季の入ったドスが効いてはいたものの、目元が血の色にうっとりと染め上げられ、瞳が頼りなく揺れていては、睨みが妙な方角に作用する。もうこれ以上の硬化は必要ないんだが……と祐介は苦笑するしかない。
 みしり、と抵抗を押し分け、入ってくる他者。自らの一番敏感で弱いところへ、相手の最も正直で拠ん所ないものの侵攻を許す、この瞬間。
 ―――ゆう…
 反射的に息を詰めながら、胸裡に相手の名を刻んで、耐える。
 慣れない。けれども、それで終わらないことを、既にこの身は知っている。

「ぁふ……ぅ」
 つらそうに息を逃す雄一郎の貌を、侵す己はただ見守るしか出来ない。掴み縋る指に力がこもり、関節が白くなっている。ごめん……と思うそばから、己だけが知る想い人の秘められた姿態を、餓えた目が貪り追い求めるのを止められない。
 日頃は厳しく清々しい眉宇が悩ましく寄せられ、半眼に眇められた眸が睫毛の隙間から潤んで光る。一文字に結ばれているのが常のストイックな唇は、上がる息にこじ開けられて閉じることも出来ず、抵抗しきれずに引き歪んだ形が凄まじい色香を放っている。
 ――ごめん、雄一郎……
 どうして俺は、こんな罪深い生き物なんだろう。なのに…
 君に包まれている。君と繋がっている。そう思うだけで涙が出そうだ。
 我が身の罪の楔に、君の堪らない熱を感じるだけで、どんな思考も蒸発しそうだ。君をひとすじも傷つけたくない! それなのに、今この場で思うがままに君を引き裂き、蹂躙したいんだ……助けてくれ―――
「………ゆ、う…」

 だがここで、これまでの数えるほどの密事では起きなかった転変があった。
 名を呼ぶ声に応えるように、ざわり、と祐介の楔が濡れた束縛で撫で上げられた。
「くぁ……っ!」
 思わず顎が上がると、その動きに呼応して、
「はぁ――ぁっ」
 腕の中から、細く絞り上げられた悲鳴が漏れた。しかし、その声音が。聞いている此方の背筋が瞬時にゾクリとしたような、鼓膜を痺れさせる甘ったるさのこの声が、苦痛を訴えているわけはない。
 まさに、喉を突いて迸った己の声に、一番仰天していたのが啼いた本人だった。
――だ、誰の声や。
 と、思う端から、ゾクゾクと躰を駆け上がってくる感覚がある。びりびりする静電気が指先までいっぱいに満たされて、全身がむず痒いような、今にも弾け飛びそうな――
 その未知の感覚の中心にある、祐介が。こちらも耐えているが、彼も渾身の力で怺えているのが鮮明に伝わってくる。
 ――な、何をする気……
 全身の皮膚で次の動きを探るそれは、待ち焦がれているのと同じこと。
 醜悪なる余分を刀で全て削ぎ落とし、理知と禁欲を具現化したような、祐介の顎から喉へのうつくしい稜線。張り詰めて惜しみなく曝された、その大好きな造形に魅入る間もなく、ひくっ、と身動ぎした中心に、体内で次々に誘爆が起きる。
「あっ、あぁ、あ―――っ」
 揺らされる、呼気にすべて、信じがたい声が混じる。
 ―――俺は、どうなってしまったんや!?

 
 祐介と、こんなひとときを過ごせるのは、最後かもしれない。
 そう思っただけなのに。そうしたら、己を犯す楔が愛おしくて。――惜しくて。
 我知らず、身裡に力が入って、しまったのだ。ゆるゆると息づき始めたそれに、呼吸を合わせてしまったのだ。
 逃がさぬよう、締め付ける。その質量と形を忘れぬよう、なぞる、撫で上げる。己の躰が勝手に始めたそれらが追い詰めたのは、祐介のみならず、まるで思いの外にあった当の自分自身だった。
 触れ合う外身から、鬩ぎ合う内側から、初めて味わう脳髄ごと攫われそうな悦楽が噴き上がる。形容しがたい熱、それから濃密さ。
 針が振り切れて現在値も限界も計測できない連鎖反応が、でたらめに感情の抽斗まで引っ掻き回し、振り回す。
 甘い、胸苦しい、焦れったい、狂おしい、悦い、もっと、止めるな、なんでこんな? 俺は何を? 好きだ、あんただけだ、行かないでくれ!
 混乱のままに、唯一縋れる相手の躰を掻き抱いた。両脚も腰に回し、力の限りしがみついた。
 息が出来ない。苦しくて、喉を仰け反らせる。頭をシーツに付け、思うさま全身を撓らせると、腰の一点でこれ以上ないほどに祐介に密着する。これ以上なく深く、穿たれる。それでいい。
「ああ…、あぁ…、はぁあ……――」
 吐息も声も熱も滾りも、溢れ出るに任せるしかない。声も躰も、何一つコントロール出来ない。ただ追うだけ。軛も手綱も振り切ってしまった、自分自身を。そんな己を任せると決めた、祐介を。

 胸に敷いた痩身が、己の為様に応えて伸びやかに反り、瞬時に撓み、切ない声を零して身悶える。ひとときも留まらぬ快美の渦の中で、探し当てた己の目にひたと視線が据えられ、縋り付く。雄一郎が感じている身裡の嵐そのままに、眇められ、瞑られ、瞠られる双眸が呼んでいる、ただ己の名だけを。
 ――限界だ。もう堪らなかった。
 ついに祐介も箍を外し、獣の本能が命ずるに任せ、抱き伏せた半身と同じ高みを目指して奔りだした。
 突き入れれば甘やかに撓らせた真っ白な喉裏が目を灼き、身を退けば見えぬ洞の中の熱く濡れた襞が蠢いて取り縋る。小刻みに掻き回せば、その身は堪らない感触に苛まれ、眼下の泣きそうな子どもめいた素直な顔が、甘えるようにねだるように、夢中の仕草で嫌々をする。
 どちらのものか分からない、零れるがままの喘ぎが谺し、呼吸がいきれ、互いの耳を焦がし、神経を眩暈させる。
 もう惨めにならない。躊躇わない。退かない。
 ほだされて許すだけ、与えるだけでは叶わない。その扉は開かない。
 与え合い、貪り合う、利己的に見えて、実は何よりも無償なそれがmake love。理性、常識、余計な何もかもをかなぐり捨てて、ただ相手だけ、自分だけ。それが達く、成就ということ。

 
 もっとも深く秘められた濃い体液を交換し、互いの境界も定かでない二人きりの感覚の中で、唯一確かな互いの躰を抱き合うと、君がいて良かった、愛してる……と響き合う。
 その至福を身内に抱き取りながら、髪ひとすじ動かせない気怠さの中で、雄一郎は罵っていた。
 ぶつぶつと愚にも付かない、役にも立たない断片ばかり吐き散らして人をグルグルさせるだけの脳味噌など、酒でも食らって寝とけ。
 俺は、今すぐ確かめたいことがある。
 祐介に、伝えたいことがある。
 次、いつ会えるか分からないんやから。
 もう若くもない。
 あと何回、こうして会えるのか、分からないんやから。

「邪魔……すんな…―――」
 絶え絶えに漏れた彼らしい毒突きを最後に、かくりと喪心した雄一郎を、くすくすと温かい含み笑いが見送った。くしゃりと髪をかき混ぜた手の動きが柔らかい。
 夜具で覆う前に一つだけ、その肩におやすみの口づけが落とされた。


*     *     *



 目覚めた最初に祐介がしたのは、チェックアウトの延長手続きだった。私生活に大変換があった翌朝――正確にはわずか2,3時間後――であるにも関わらず、どこまでも周到にして抜かりのない男である。
「雄一郎、何か腹に入れた方が良いぞ。コンチネンタル・ブレックファスト一辺倒はもう古いのかな。凄いぞ、朝粥にも京風と広東風がある」
 休日朝の遅い目覚めを楽しみつつに、ルームサービスのメニューを片手にくつろぐ、“エリート”ビジネスマン。ぱりっとしたシャツを羽織ってゆったりと腰掛ける祐介は、そんな形容にぴったりだが。
 ――貴様…、この有り様を見て言っとるんか………
 ベッドごと遭難したような惨状に甘んじるしかない雄一郎は、彼我の落差を恨めしく眺めやった。
 暴風雨に巻き込まれてぐしゃぐしゃのシーツにくるまれた躰は、泥に変じたかのようで、誇張ではなく指一本動かせない。現況をせめて自嘲混じりに腐そうにも、洒落にもならん億劫さで声も出ないのだ。
 “腰が抜ける”というベタ過ぎる修辞を、この歳になって実体験として我が身で味わうハメになるとは……
「煙草」
「客室は全室禁煙」
「―――っ、くそっ…」
「バルコニーまで抱いてってやろうか?」
「要らんわっ!」

 甘ったるすぎる朝の光の中、身動きならない不埒な疲労困憊に加え、身の置き所もない全身の痒さくすぐったさに苛まれながら、雄一郎は身の振り方も、今このときの自分の顔すらどうすれば良いか分からない。
 死ぬほど恥ずかしくて、自分のしでかした諸々がとてものことに信じられなくて、記憶の余波に洗われるたびに真っ赤になったり真っ青になったり。
 もしかして、現状よりも激痛で蒼白になってた頃の方が、よっぽどマシだったんと違うか!? と大いに後悔するが、もはや遅い。万事手遅れだ。

 自分とは見事に対極に、自らの立ち位置を一晩ですっきりと見出した祐介の、満ち足りて清澄なさまはどうだ。水際だった美貌に艶が加わり、歳相応の落ち着きすら豪奢な外套のように着こなして、小面憎いような美丈夫ぶりである。
 ――もしかして、俺は一時の激情のために、一生の不覚というやつをやらかしたのでは………
 もはや遅い。キャラは確立された。


 訣別は無論のこと、一応は双方の合意のもとに、なし崩しに取り止めとなった。

 だが、いきなり振られた初めての役割と、未だ到底折り合いを付けられず、雄一郎はパニックから拗ねまくっている。収まりどころは現時点で未定、というのは当然か。

 でも、この混乱こそが至上の甘美。またとはない楽しさ。
 二人の今後を二人で試行錯誤できる幸せを、しみじみと噛み締める祐介であった。

*     *     *


 窓の外、遙か眼下には、目もあやな薄紅に染まった桜が群れて、花霞となって棚引いている。
 うららかな陽射しを浴びて愉しげにさんざめき、今や盛りの春を謳歌する。その様は、いささか猥褻な気配すら匂い立つ有頂天、と評しては主観に引き摺られ過ぎだろうか。

 ともあれ。
 時ならぬ嵐をやり過ごした桜どもは、まだしばらくは居座り続け、我が世の春を譲るつもりは毛頭ないらしい。 


                                          ◆めでたし、めでたし◆
***************************************


どこがめでたいんや~~~!!![むかっ(怒り)] と約1名の雄叫びが聞こえたような……
ごめんね、合田さん…… 上がってみたら、こんな話になっちゃいましたよ( ̄∇ ̄)
地図も用意しないで旅に出るから、行き着く先がいつも全然分からない……
でも、熱愛する義兄弟の野営地、出来うる限りのお宿を整えるのは
当たり前でございます(>_<) ええ、死力を尽くしますとも[exclamation]

さてさて、目指しておりましたグラニュー糖砂漠に辿り着いたと言えましょうか?(^_^;)

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コメント 4

コメントの受付は締め切りました
青子

完結、お疲れ様でした。
きっと、ゴリゴリなはずの肩を、揉んで差し上げたい思いです。
怪物くんばりに伸びるといいのにー^^

こういうシーンで攻める雄一郎って、可愛い・・・
が、雄一郎視点ってのが、身悶えしそうに恥ずかしい~~っ(私が悶えてどうする!)
勿論、その恥ずかしさも楽しみましたよん^^

げこさんの中では、イブも今回も二人の関係を切り開くのは雄一郎なんですね。
でもその後、ぱりっとしたシャツ姿で、
「バルコニーまで抱いてってやろうか?」
なんて雄一郎をからかうのは義兄・・・
甘えているのは雄一郎なのか、義兄なのか・・・?
いやもう、幸せならどっちでもいいんですが(笑)
義兄弟のお姫様抱っこは見たいですが・・・(いや~ん)

厳しく険しい氷砂糖の氷壁の向こうには、確かにグラニュー糖砂漠がありましたっ!!
砂漠に頭突っ込んだ気分です(激甘っ)

「花嵐」素敵なタイトルですね。ぴったり^^







厳しく険しい氷砂糖の氷壁の向こうには、グラニュー糖砂漠が確かにありましたねっ!
砂漠に頭突っ込んだ気分です(笑)







by 青子 (2011-12-07 14:31) 

げこ

青子さま~!\(^^@)/


こったらバカ長ぇもんをご拝読くださったダケで、こちらこそ按摩して差し上げないとー!
ではあちきは、ゴムゴムの実を食って腕伸ばしやしょう♪

結局5回に分けてアップになりましたが、毎回視点がコロコロ変わって
さぞや読み辛かったのではなかろうかと……(_ _;)
ついつい、攻守どっちものサイトビュー描きたくなっちゃうんですよねぇ。
攻兄、受兄、攻弟、受弟、合計4種ぜんぶ見たーーい!(不埒の極み^"^;)
青子さまが照れちゃったのは、合田さん上下、どっちの時でしょうね?(にやにやv)

私には持病がありまして(持病の宝庫~~!!^皿^;)
受に入る(憑依する)よりも、攻に入る方が圧倒的に筆が進むんです。
(だから受けキャラに猛烈に思い入れるのか……?)
普段はなかなか出来ない義兄を攻めるのが、だから、すっげ楽しかったぁ~♪
病みついたらウチの看板掛け替えなきゃいけないんで、スパイス程度ではありんすが(^m^)

そうそう、役割はネコでも、海のように尽きない義兄の愛情にあぐらをかいて、
何ひとつ恐れずに暴挙をやらかすのは合田さん、っていう世界観です。
でも、一度破壊&再生すれば、安定した日常では舵取りを引き受けるのは義兄……
ってことで、要するに甘え合ってるんだな♪(チキショーーっ、この幸せ者が!!!!)

祐介、いくら見栄張っても、あの巨人のお姫様だっこは無理だろう(^"^;)
この上ぎっくり腰で救急隊の出動までやらかすなよ……(っとにもう!////)

グラニュー糖砂漠、たどり着けてよかったです~~(*^人^*)
もう当分、色事関連のボキャブラリーは底をついた感じですが、
バカバカしいネタ関連ならまだあるぞ…… うんっと下らないヤツ!
また頑張って捏造しまーすv

いつもあったかいコメント、ありがとうございます!
by げこ (2011-12-07 15:47) 

青子

さっきのコメント、同じ文章が二回も・・・?
恥ずかしーーーっ><><><

恥ずかしついでに・・・私が照れたのは雄一郎が「上」です^^



by 青子 (2011-12-07 19:14) 

げこ

合田さん「上」が照れますか(にやにや)
やっぱり、馴れないポジションは照れくさいッスよね。イシシシv(o^∀^o)
捏造しながら何回も尻こそばゆくてセルフ拷問でしたがなー(不治のドMが…^"^;)

コメント、直すと順番がひっくり返っちゃいそうなので、
そのままにしておきますね。分かりますから大丈夫(^.^)
by げこ (2011-12-07 19:23) 

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